コワーキングスペースの先がけとして、6年前に中目黒にオープンしたMIDORI.so(みどり荘)。現在は表参道、永田町と拠点を増やしているが、ここ中目黒は、外観はもちろん、運営方法やコミュニティのつくり方も、いわゆるコワーキングスペースとはひと味違う異色の存在。その自由で不思議な魅力について、オーガナイザーの小柴美保さんにお話をうかがった。
蔦の絡まる味のある建物を入ると、そこにはどこか学生寮を思わせる、アットホームな空間が広がる。取材に訪れたときには、入居者(メンバー)が一緒にご飯を食べる「コミュニティランチ」の真っ最中で、ラウンジには次々と人が集まってきた。
「この場所は、言ってみれば『働くとは何か』というところから始まっているんです。儲けるためにやるんじゃなくて、やりたいことをまかなうためにやる。これからどんどん働き方が変わっていくし、フリーランスも増えていく。だからいろんな人が集まって、働くとは何かを考える環境をつくろうって」
その「やりたいこと」とは、なんとシンクタンク。MIDORI.soは、イデー創業者の黒崎輝男さんと、小柴さんのこんな会話からはじまったそう。
「世の中が、考えることを怠ってふわふわ進んでいくんじゃないか、もっと自由に考えられる場所があってもいいよね、って。でも、それってお金にならないですよね……と言っていたら、面白い物件を見つけたという人がいて。当時は中も荒れ果てていて、勝手に蔦も生えてきて。そこで直接オーナーさんに、片付けるからここを貸してくださいとお願いしたんです」
オープンした当時は、コワーキングスペースも現在ほど一般的でなく、比較する対象もない状態。海外のサイトを検索して、値段などを参考にしたという。
「もともと私は金融系の仕事をしていて、運営もよくわからないし、広告を出すお金もない。メキシコ人のアートディレクターに手伝ってもらって、とりあえずウェブをつくって、メンバーのインタビューをしてみようか、というレベル(笑)」
内装費を節約するため、(黒崎さんがやっていた)自由大学の人たちに、「ペンキ塗りワークショップをしましょう」と言ってタダで手伝ってもらうなど、みんなでDIYをしてつくっていった。
「ペンキ塗りなんてしたことないから、意外とみんな楽しんでくれて(笑)。黒崎さんも世界を回っていて、こういう場所ってありだよねって言っていたし、私も高校時代にイギリスで寮生活をしてて、いろんな国の若者がキッチンルームでわいわいやっている、みたいなのが想像ついていた。今、そのイメージどおりになっているのかはわからないですけど」
現在も、ウェブサイトとフリーマガジンがあるくらい。とくに広告などはしておらず、メンバーは友だちの紹介など、口コミで集まってくるという。
MIDORI.soでは、入居者を「メンバー」と呼んでいる。ルールをつくりすぎると窮屈になるので、「鍵を閉めてね」「大人としての対応をしてくださいね」というくらいと、とてもゆるい。
「あんまり自由が爆発しているのもよくないし、管理しなさすぎるといろんな問題が起こるので。ギリギリのラインをうまく保たないといけないっていうのを学びました。コミュニティによって、ルールが補われているという部分はあるかも、ですね」
中目黒のほか、表参道、永田町と3つある拠点には、ひとりずつ「コミュニティオーガナイザー」を置いている。役割は、ハード面ではオフィスの体裁を整えること、そしてソフト面ではメンバーみんなをつなぐこと。
「困ったときの相談役であり、ただのおしゃべり相手であり、なんでも窓口。『カメラマン知らない?』と言われたら、紹介することもあります。オーガナイザーは、みんなと楽しく交流できるというのが基本で、言い方は悪いけれど、パーティガールの一歩手前みたいな人がいい(笑)」
小柴さんは、コミュニティオーガナイザーを束ねながら、3拠点を行ったりきたり。それぞれで行われているコミュニティランチほか、ビールナイトといったイベントに顔を出し、メンバー間の交流を図っている。
MIDORI.soがあるのは、建物の2〜3階部分。固定席とフリーアドレス席のほか、数人で使えるスペースや部屋がいくつか。キッチンのあるラウンジやミーティングルーム、ギャラリーも備えている。
「本当は席にしたほうが経済的にはいいかもしれないけど、余白も必要なので。アートエキシビジョンをやったり、写真展をしたり、イベントをしたり。仕事で来る人以外がこの場所に関わることになるのはプラスだと思って、意識的にそうしています」
建築やデザイン、音楽やCM関係など、クリエイティブ系の人たちを中心に、さまざまな国籍のメンバー、40人ほどが入居している。居心地がいいからか、入れ替わりはそれほどないという。
「何平米でいくらみたいな形ではなく、スポーツジムのようにみんなで楽しく使ってくださいというスタンス。もちろん個人のスペースもあるけれど、ラウンジで働いてもいいし、屋上で働いてもいい。フォントをつくってウェブで売っているスイス人が、1年に3か月だけ滞在するなんてことも」
ちなみに、永田町にあるMIDORI.soは場所柄、スタートアップ系など、もっとビジネス寄り。たとえば、スタートアップの人にフリーランスのデザイナーを紹介するといったように、拠点とメンバーをもっとつなげていきたいと話してくれた。
印象的な外観と、個性的な内装、そして自由な雰囲気。巷にあふれる、いわゆるコワーキングスペースとは一線を画しているように感じられるMIDORI.so。
「もちろんワークスペースなので、メンバーは増やしたいと思っているんですけど、家具がどうとか、スペックがどうとか表面的なところで勝負したくない。1個1個説明するというより、どこかで伝わる人だけでいいや、という気持ちもあって(笑)。わざとではないけど、そうなっているんです」
「ほら、俺たちクリエイティブだろ」という世界観より、自分たちの個性を発揮してもらったほうがクリエイティブ、と小柴さん。そんな自由な雰囲気や価値観にひかれて、入居者は集まってくる。
「超前向きで、人と関わることを目的にここに来るというよりは、気持ちよく働きたいからここに来る。その結果、コミュニティがある、っていうほうがいい。すごく能動的に友だちをつくるというよりは、自然と仲良くなる、という感じ。なかなか難しいんですけど」
一見すると、メンバーは家族や仲のいい友だちのようにも思えるが、「コミュニティをつくろう」という意識はとくにない。
「ようは、面白い人に出会えればいいんです。ああ、何か今日も1日面白かったな〜みたいな。仕事にもつながればいいし、こういう働き方が実験できる場所をもっと増やしていきたい。東京もいいけど、京都とかにもつくれたらいいなあ」