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ワークでもありライフでもある、人と人をつなぐという仕事。

連載「オフィスとつなぐ人」第2回は、いわゆる“オフィス”を飛び出して、保育園へ。現在、都内5ヵ所にある認可保育所・認定こども園「まちの保育園・まちのこども園」では、各園に「コミュニティコーディネーター(CC)」という専門職を置いている。園と地域を取り巻く人々を“つなぐ”ほかに、園内の事務や用務といった役割も。「今の時代だからこそ必要な仕事」だと話す「まちの保育園 吉祥寺」のCC・中西信介さんに、その日常と意義について聞いた。

「まちの保育園 吉祥寺」のコミュニティコーディネーター・中西信介さん。

目指すは、保育園・子ども・保護者・地域の“四方よし”。

「よく“地域”コーディネーターと間違えられるんです(笑)。もちろん地域とのつながりも大切にしているけれど、あくまで“コミュニティ”をつなぐのが役割。コミュニティとは人の集まりなので、子どもや保育者など園内の人はもちろん、ご家庭や近隣の人たちも対象です」

中西さんが、この職に就いて3年半。地域住民からイベント開催の相談を受けたり、子どもたちが使う家具をつくる会を計画したり、最近では徐々に“コミュニティコーディネーターらしい”仕事も増えてきた。

まちの保育園のコンセプトは、その名のとおり「まちぐるみの保育」。保育園を地域に開くことで多様な出会いが生まれ、子どもにとっても地域にとってもいい影響を与える、“インフラ”のような存在になることを目指している。

それを実現するために欠かせないのがCCの存在。仕事内容は多岐にわたるが、根底にあるのは「子どもにとって、いい出会いと多様な実体験を提供する」ということ。

特徴は「まちぐるみで子育てをして、子どもたちとまちづくりをする」こと。

「理想は、園と地域と子どもと保護者の“四方よし”。行政向けの申請書を書いたり、壊れた家具を直したり、事務的な仕事も多いですし、ときには保育の補助に入ることもあります。やっていることは地味ですけど(笑)、まちの保育園の理念を実現する存在という自負をもって働いています」

手応えを感じたのは、園の屋上にある小さな畑に、地域の人が関わるようになってくれたこと。あるとき、保護者から生ゴミから肥料をつくる取り組みをしている地域団体を紹介され、一緒に土から野菜を育てることをはじめた。子どもたちは地域の人たちと野菜づくりが経験ができるし、園は地域とのつながりができる。さらに地域団体にとっては自分たちの活動を伝える機会になる。そんなポジティブな関係を築くことができた。

「なにより、地域の方が『肥料なくなってない? 持ってきたよ』って気軽に遊びにきてくれて、自然な付き合いになってきたのがいいなと思って。来週はこれをやります、その次はこれ、ってイベント的にこなしていくのではなく、丁寧に繰り返すことでつながりをつくれている。関わる人の数も、関わり方の深さも濃さも、だんだん増してきている実感があります」

各園には保育士とは別に必ずCCが置かれている。それぞれ前職も経験もさまざま。

「つなぐ」仕事は、世の中にだんだん増えている。

実際、CCのような「つなぐ」仕事は、世の中に増えてきているそう。たとえば、多くの自治体が、学校と地域が一体となって教育をするため「学校地域コーディネーター」を導入したり、介護福祉施設でも高齢者と地域とのコミュニケーションを円滑にする「コミュニケーター」を置きはじめたり。中西さんは、「つなぐ」仕事が多様化するなかで、意識していることがあるという。

「まちの保育園は、保育園に“常駐する正社員”としてコミュニティコーディネーターを置いています。職種として設けることで、“できたらやる”のではなく、欠かすことができない重要な業務なんだと意思表示しているというか。僕らは、理念を実現するための専門職。だからこそ、自分たちがCCの専門性を言語化しないといけないんですけどね」

そもそも、まちの保育園に入るまで、中西さんは保育や教育に携わった経験はなかった。前職はなんと国家公務員。さまざまな社会的な課題に日々触れるなかで、社会と直接関わることをしたいと考えるように。そんなとき、たまたま知ったまちの保育園の理念に共感し、CCとして働くことを選んだ。

「募集のときに言われた『業務内容は決まっていない』というところにも惹かれました(笑)。まわりには子育て世代も多かったし、保育に関する法律や予算のことはある程度知っていましたが、現場で体験を通して学んでいきましたね。今もまだまだですけど、他の園のCCとは定期的に会って『僕たちの仕事ってどうあるべきか』というのをよく話しています」

園内には、地域の人たちが利用できるコミュニティスペースも。

30年前にも30年後にもない、今の時代だから必要な仕事。

仕事をするうえで大事にしているのは「傾聴」、まずは相手の言葉に耳を傾けること。そして、誰かに相談や提案を受けたら、受け止めた内容はひとりで抱えないこと。かといって、すぐに組織内で共有するわけでもない、というのが面白いところ。

「一般的な企業なら、オンラインでとりあえず共有しておくのも大事かもしれませんが、僕は興味がありそうな人に“そっと伝える”というスタンス。そうすると、あとで実を結ぶことがあるんです。逆に、現在の状況や裏側にある思いなどを考えて、あえてしばらく何もしないということもたくさんあります」

ただ「これをやってください」と言うのでは、保育士にとっても負担になってしまう。「子どもたちのためにやりたい」というポジティブなスタンスになれるように、誰にいつ何を伝えるべきか、いつも考えているのだそう。

ストーブに薪をくべるのも、コミュニティコーディネーターの仕事!?

もうひとつ、意識しているのが「ワーク」と「ライフ」。最近、園の近くに引っ越したこともあって、公私の境目がどんどんあいまいになっているそう。そもそも地域の人や保護者とは、ビジネスとして関わっているわけではないため、中西さんも自然とプライベートに近い感覚に。

「僕がいわゆるビジネスライクな“ワーク感”を出すと、相手が引いちゃうこともあるので、“ライフ感”の延長で接するようにしていて。逆に、休日に地域のイベントで面白い人と出会ったら、少しワーク感を出して名刺を渡してみたり(笑)。境目がないからこそ“ワーク感”と“ライフ感”を意識するというか」

これからは、保育園と地域がつながってできた「線」を広げて「面」に、さらに継続することで立体的な活動にしていくことが目標。最終的には、CCがいなくても地域と園の間にコミュニケーションが生まれるようになるのが理想だと話してくれた。

「僕らの仕事って、おそらく30年前には存在しなかったと思います。そして、もしかしたら30年後にはもうなくなっているかもしれません。多様性が叫ばれて、福祉も教育もまちぐるみでやらないといけない時代。だからこそ、人と人、人と地域をつなげる仕事が必要とされているんでしょうね」

Profile

中西信介 Shinsuke Nakanishi
まちの保育園 コミュニティコーディネーター

農林水産省の職員、国会事務局職員を経て2014年に入社。「一時期、いろいろなことで悩んで」豆腐の移動販売をしていたことも。そのとき地域のさまざまな人とコミュニケーションをとる楽しさを実感したことも、現在の仕事に就く理由のひとつに。末っ子ならではの愛嬌で、人の懐にすっと入るのが特技。

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