「REWORK」編集長・馬場正尊が、新しい働き方やオフィスの形を実践している会社を訪ね、その意図や狙いを探る連載企画の第2弾。今回はアウトドアで働き方改革を提案するスノーピークビジネスソリューションズ(以下SPBS)の村瀬亮さんと、同社のパートナーでNPO法人ハマのトウダイ共同代表の岡部祥司さんに、アウトドアオフィスの可能性やこれからの時代の働き方について、お話をうかがった。前編はこちら
村瀬 会社でアウトドアオフィスを導入するにあたって機材を揃えることにしたんですが、やっぱりいいものが欲しい、だったらスノーピークだろうと。ある程度機材を揃えたら、今度は自慢をしたくなってしまった(笑)。
アウトドアオフィスという新しい働き方を世の中に発信すれば、スノーピークの宣伝にもなるし、もしかしたらテントとかをもらえるかもしれないなんて思って。
馬場 最初はちょっと打算的なところからスタートしたんですね。
村瀬 まずは、スノーピークの山井太社長の講演会に行き、事前に考えておいた10秒くらいの自己紹介とともに、今度「Snow Peak Way」という、社長も参加するキャンプに行きますと伝えました。
それから何度かお話する機会をつくってもらって、ビジネスのユーザーであること、アウトドアオフィスの可能性、それからコラボレーションして何かやりたいと説明して。そうしたら数回しか会っていないのに「じゃあ、一緒に会社をやろう。代表をやって」って話になって。
馬場 話が早いし、仕事の始まり方が爽やかでいいですね。スノーピークビジネスソリューションズでは、どういう事業を行っているんですか?
村瀬 自然の中で行うアウトドア研修サービスや、アウトドアオフィス用の機材のセット販売。キャンプ道具を会社で買うのはちょっと、という人にはオフィス家具の提案や、レンタルサービスもしています。
村瀬 たとえば、スノーピークのショップでは、サントリーのみなさんが開発会議を開いてくれました。自分たちでテントを張って場をつくって、そこで議論をしたり、コーヒーを飲んだり、ゴハンを食べて焚き火トークをして帰るパックです。
他にも、ディスカッションや体験会とか。まずはハードルの低いところからスタートして、みんなが自然との関係を理解しながら、創造性の高い仕事にシフトしていくってストーリーを設計する。そういう場をあちこちにつくっているところです。
馬場 実際に体験した人たちの反応って?
村瀬 ほぼ100%の人が、理屈では説明できないけれど、なんかいいと言ってくれます。この感想って、五感で感じたもので、そこに本質的な答えがある気がしている「いいね」なんですよ。これから重要なのは「なんかいいね」の「なんか」を証明するエビデンスをつくっていくことだと思っています。
馬場 企業はコストメリットだったり、生産性を求めますからね。
村瀬 そう、みんな生産性を測りたくて仕方ないんです。はっきり言って、キャンプを1回やるだけでは、今日の生産性なんて上がりません。だけど、1年後はわからない。今日の生産性が上がらないからって何もやらなければ、会社は今までどおり進みます。でも、今までどおりの延長の10年後はすごく怖い。
チームに革新や変化を起こしたいなら、わからないけどやってみるのが大事。経営者だったらメンバーへのメッセージになるし、社員にとっては気づきになる。これだけいくつもメリットがありそうなものって、他にないでしょう? やってみるかどうかはみなさん次第なんです。
馬場 岡部さんと村瀬さんはどんな出会いだったんですか?
岡部 僕は「ハマのトウダイ」というNPOを運営していて、「パークキャラバン」という新しい公園の使い方を提案しています。
そのプロジェクトにスノーピークにも協力をしてもらっていたのですが、新たな取り組みとしてアウトドアオフィスができたらと思って、社長の山井さんに相談しにいったんです。すると「もうやっている面白いやつがいるんだよ」と村瀬さんを紹介してもらって。
村瀬 すぐに意気投合して、アライアンス関係を結ぶことになりました。ちなみに、SPBSは岡部さんのようなパートナーと役員しかいない会社なんです。
岡部 パートナーも面白いことをやっている人たちばかりなので、パートナー同士がつながって、新しいことも生まれています。この先どうなるのか、ほんと楽しみで。
馬場 その組織体制も面白い。ノウハウもだいぶ溜まってきていますよね?
村瀬 ええ。実際、アウトドアオフィスを否定するポイントはたくさんあるんですよ。虫がいるとか、紙がバーっと飛んじゃうとか(笑)。それを言い出したら、今までのオフィスに戻っちゃう。
村瀬 アウトドアがいいのは、やっぱり風が当たるとか、音がするとか、五感で感じられるところ。最近、外で執筆していて気づいたんですが、小鳥のさえずりも、川や虫の音も、それほど気にならない。でも、メールが来ると集中が切れてしまう。人工物的なノイズは邪魔になるんですね。
会社って白い部屋でなるべく音をシャットアウトしていますが、そういう箱は単純作業をするには効率いいかもしれないけど、自ら生み出す作業は止めてしまう。
馬場 刺激があるから考えられるし、脳も働く。
村瀬 分析が進んでいけば、それが科学的に証明されるんじゃないかって思って、大学の先生と実験を始めています。
馬場 今も、火はついてないけど、これ(焚き火用テーブル)があるだけで全然モードが違いますよね。
岡部 家具メーカーの人によく言われるのは、イスの高さが低すぎるということと、可変できること。高さが変えられるなんて、オフィス家具的にはありえないですから。しかも、そこのテーブルにガスやIHをはめ込めば、仕事をしながらコーヒーもいれられる。オフィスにキッチンをつくろうと思ったら大変だけど。
馬場 その場、その場で、コミュニケーションする場所をつくれる。オフィスって動かないことが前提だけど、キャンプ道具で仕事しはじめた瞬間に全然変わる。コミュニケーションも同じなんでしょうね。
岡部 ええ。ポータブルであるというのは、ものすごく今っぽいですよね。
村瀬 この間、アウトドアオフィスの効能をすごく感じる機会がありまして……。実はうちの会社が今年の2月に火事になったんです。
馬場 えー!
村瀬 オフィスが水浸しなので、近くの銀行の会議室を借りることになったんですが、メンバーは各々自分たちの環境をセッティングして勝手に仕事を始めて、僕自身が一番あたふたしている状態(笑)。みんなふだんから機材を持ち出すのに慣れているから行動できたんですよね。
馬場 それがもう日常になっている(笑)。
村瀬 本当に強いチームの条件って、自分たちで考えて動けること。柔軟性があって発想が豊か、それがアウトドアオフィスを通じて訓練されるというか、自然とそういう力が身についていくんだと思います。
馬場 企業にとっても欲しい人材だろうし、重要なスキルばかりですね。
村瀬 やらない手はないと思うんですが、まだ日本には今までどおりの考え方で働き方改革をしようっていう人のほうが多くて。だいたい、残業を減らすだけで急に生産性なんて上がるはずないでしょう?
馬場 なるほど、働き方改革にもつながるんだ! アウトドアオフィスって、ファッション感覚でただ外で働くんではなくて、仕事の環境を自分で最適化する力を身につけられるということなんですね。
村瀬 そう、実は深いんです(笑)。「働き方改革」とか「効率のいい働き方」みたいなことって、今までもいろいろやっていたと思うんです。でも、僕は「働く意識の改革」のほうが先だと思っていて。
今は副業が一般的だし、どこでも働ける、よりクリエイティブに動けるようになっています。人との関係性も、同じ空間でつながることもあれば、オンラインでつながることもある。薄いようで濃いというか濃いようで薄いというか、あらゆるパターンがあって。
これからロボットやAIがこなせる仕事が増える中では、自分で発想してプレイヤー意識を持って働くことがとても大事。何かを生み出す喜びだったり、人と人がつながること、そういうもののほうが重要になってくると思うんです。
村瀬亮 Ryo Murase
1999年、(株)キーエンス名古屋営業所長時代に、現場にとって本当に必要なシステム会社が存在しないことに気づき、起業を決意。 製造業を中心とした現場の情報化を支援し続け、750社2,000案件の受託開発実績を持つ。社員がワクワク働ける会社創りにも尽力し、(株)船井総合研究所の従業員満足度調査で5回の最優秀賞と、9,000社の中からグレートカンパニーアワードで「働く社員が誇りを感じる会社賞」を受賞。2016年、(株)スノーピークと共同出資で(株)スノーピークビジネ スソリューションズを設立し、代表取締役に就任。現在は、自然の壮大なパワーとテクノロジーの無限の可能性を健全に融合し、企業の「人材問題」を解決するため講演活動を積極的に実施している。
岡部祥司 Shoji Okabe
1974年、兵庫県神戸市生まれ。1997年、株式会社竹中工務店入社。14年間の在籍中、主に営業に従事、顧客のワークスタイル提案に携わる。2011年、ウェブを中心としたコミュニケーションデザインを手がける(株)アップテラスを創業。2014年には、NPO法人ハマのトウダイを設立し、公共空間の活用をテーマに活動を行っている。2016年10月、(株)スノーピークビジネスソリューションズ エヴァンジェリストに就任。2012年、一般社団法人横浜青年会議所理事長。2016年、グッドデザイン賞を受賞(ハマのトウダイ)。