REWORK

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〈前編〉アウトドアオフィスで、世の中の働く意識を変えていく。スノーピークビジネスソリューションズ・村瀬亮さん

「REWORK」編集長・馬場正尊が、新しい働き方やオフィスの形を実践している会社を訪ね、その意図や狙いを探る連載企画の第2弾。今回はアウトドアで働き方改革を提案するスノーピークビジネスソリューションズ(以下SPBS)の村瀬亮さんと、同社のパートナーでNPO法人ハマのトウダイ共同代表の岡部祥司さんに、アウトドアオフィスの可能性やこれからの時代の働き方について、お話をうかがった。

「Sports x Creative」をテーマにした「THE BAYS」内にあるSPBSの横浜オフィス。

超効率主義から、お客さんと一緒に考える仕事へ。

馬場 村瀬さんにはずっとお会いしたかったんですが、やっとお会いできましたね。まずは、これまでのプロフィールから教えていただけますか。

村瀬 僕もお会いしたかったので、光栄です。もともと僕は10年ほど、キーエンスという製造販売会社で営業の仕事をしていました。

キーエンスは超効率主義、「効率の権化」みたいな会社で、とにかく営業の手法が定型化されているんです。たとえば、営業電話は1日何分かけなければいけないという決まりがあるくらい。それで年商2000億、経常利益1000億を達成している。ある意味、自ら発想しなくても言われたことをきっちりやれる人のほうが売れるシステムを確立していました。

馬場 売り方を自分で工夫するより、逆に効率的なんですね。

村瀬 製品には徹底的にこだわっていて、最速とか最小とか「世界◯◯が3つ」ないとダメ。お客さんも驚くし営業していても楽しいんですが、一方で僕はもっとワクワクしながら考えるのが好きな人間だったので、それだけではない工夫をしたかった。

そこで、営業電話のルールをやめることを提案したんです。するとどうなったかというと……全社の売り上げが落ちました。今度は、毎月締め日があってしんどいので3ヵ月に1回にしようと提案したら、やっぱり同じように落ちてしまう。えーっと思いましたが、実際、人間って追い立てられるからこそできるんですよね。

馬場 (笑)。

株式会社スノーピークビジネスソリューションズ代表取締役の村瀬亮さん。

村瀬 あるときクライアントから在庫管理のシステムができないかと相談を受けました。キーエンスは基本ハードを売る会社なので、ソフトのことは何もわからない。そこで、プログラムをかじっている友人に1万円渡してシステムをつくってもらったんです。

持っていったらお客さんは喜んで買ってくれて、しばらくしたら「もっとこうならない?」と要望がきて。わかりましたと言ってつくって持っていくと、また喜んで「今度はこれできない?」。えらいことになったなと思いましたが、お客さんと仲良くなるし、すごく楽しかったんですね。

馬場 スモールトライを永遠に続けたわけですね。

村瀬 プロセスを共有して、ベクトルを合わせて一緒にやっていくことはこんなにワクワクが詰まっているんだと実感して、今もその延長でやっています。

つくったソフトがお客さんに受けたことで、なんとなく自分でもやれるんじゃないかって、無謀にもふと思ってしまって。1999年にハーティスシステムコンサルティングという会社を立ち上げました。

オフィス内は天井や躯体がむき出しのラフな空間。

単に売るのではなく、問題解決のファシリテーションまで行う。

馬場 ちなみに村瀬さんの会社って、どんな会社なんですか?

村瀬 現場に行って寄り添うというのはキーエンス時代と同じですが、それ以外は少し違っています。キーエンスの場合、全員がサボるものだという性悪説に立っていて、基本的な価値基準は利益。高給だしやりがいもあるけれど、朝早くから夜遅くまで働いて、平日は飲みに行くことすらできません。

うちの会社の目標は、トータルハッピーを目指すこと。仕事って、長い時間やっていることだから、働くという行為そのものが楽しいほうがトータルの幸福度は高いわけですよね。もちろん、キーエンスの考え方や手法はすごい、ただ時代が低成長に変わった現在は、価値基準や働き方もさまざまなので。DNAは受け継ぎつつも、より人と人とのつながりを大切にしているという感じですね。

馬場 否定しているわけではない、と。だって、村瀬さんは当時から楽しく働いてたんですもんね。

村瀬 ええ。そういうふうに組織のあり方を考えるようになったのは、だんだん社員が増えていった頃からですね。せっかく関わってくれたんだから、経営者と作業者という関係じゃなくて、何かを生み出す仕事とかワクワクする仕事やってほしい。全員が同じ方向を向くにはどうしたらいいんだろうって。

パートナーでNPO法人ハマのトウダイ共同代表の岡部祥司さん。

岡部 村瀬さんの会社がすごいのは、付加価値を提供しているところ。マイクロソフトのOffice 365のリセラー事業では、単にソフトが売れればよいというのではなくて、働き方や人間関係を改善するファシリテーションなんかもしていて。

村瀬 システムを導入するのは、何か問題があるからで、そこを改善しないと意味がないですから。そのために、ランチミーティングをしてみよう、とか。

岡部 受発注の関係じゃなくて、協力してものをつくろうというスタンス。たとえるなら、清掃会社がクライアントに掃除をさせるみたいな。ちょっと待て、君たちがやったほうがいいって(笑)。

馬場 クライアント側のチームを変えながら、システムがインストールされていく。ソフト開発の経験をそのまま体系化したんですね。

村瀬 ただ与えられるだけじゃ何も面白くないですしね。公共施設とかと一緒で、誰が使うの? って感じになってしまう。

馬場 建築とか空間もちょっとずつ変わってきていて、使う人が関わるようになってきているんですよね。一緒につくっていくから、できた瞬間からすごく愛される。プロセスがすごく似ているなー。

家具はもちろん、すべてスノーピークのキャンプ用品でコーディネート。
テントの中でミーティングなどができるスペースも。
横浜オフィスでは、予約をすることで実際に製品を体験できる。
インタビューは、本物の薪が入った焚き火台を囲んで。

「キャンプで仕事」はいける、という根拠のない確信。

馬場 アウトドアオフィスをやってみようという発想はどこから?

村瀬 クラウドサービスを提供していたので、テレワークを勧めていたんですが、エッジを効かせないとなかなか伝わらなくて。その頃、ちょうど地方創生がブームで、徳島県の神山町にいろんな企業がサテライトオフィスを置くとか、どこでも働けるという動きがあちこちで始まっていました。

そんなときに、キャンプで仕事っていうのを思いついたんです。それなら、外でも働けることを一瞬で説明できるじゃないですか。そこで高知の「土佐山アカデミー」の駐車場の一角を借りて、1週間アウトドアで仕事をしてみました。たまたまスケジュールが空いたのが4月で、会社の入社式の訓示は山をバックにオンラインでやったんです。

馬場 やっぱりまずは自分で実践するんですね(笑)。

村瀬 実際やってみたら、すごくワクワクしたんです。この働き方には、今の世の中に欠けている大事なものが詰まっているんじゃないかって。Office 365のPRにもなるし、それを許している会社というのも面白い。どうせなら、みんなでやっていることにしちゃおうと思って。

たとえば、その年の新人たちとは、焚き火を囲みながらアウトドア懇親会をやりました。すると、出てくる言葉がポジティブだし本音な感じで、根拠はないけれど「これはいけるな」と。

僕らは7つのメリットと言っているんですが、キャンプは運んでいって組み立てるとか、協力するのはもちろん、機材を畳んで片付けるというマナーも入っている。こんなにマルチパーパスなものはないし、取り入れたら会社が一気によくなるんじゃないかって思い始めたんです。

後編へ続く

Profile

村瀬亮 Ryo Murase
1999年、(株)キーエンス名古屋営業所長時代に、現場にとって本当に必要なシステム会社が存在しないことに気づき、起業を決意。 製造業を中心とした現場の情報化を支援し続け、750社2,000案件の受託開発実績を持つ。社員がワクワク働ける会社創りにも尽力し、(株)船井総合研究所の従業員満足度調査で5回の最優秀賞と、9,000社の中からグレートカンパニーアワードで「働く社員が誇りを感じる会社賞」を受賞。2016年、(株)スノーピークと共同出資で(株)スノーピークビジネ スソリューションズを設立し、代表取締役に就任。現在は、自然の壮大なパワーとテクノロジーの無限の可能性を健全に融合し、企業の「人材問題」を解決するため講演活動を積極的に実施している。

岡部祥司 Shoji Okabe
1974年、兵庫県神戸市生まれ。1997年、株式会社竹中工務店入社。14年間の在籍中、主に営業に従事、顧客のワークスタイル提案に携わる。2011年、ウェブを中心としたコミュニケーションデザインを手がける(株)アップテラスを創業。2014年には、NPO法人ハマのトウダイを設立し、公共空間の活用をテーマに活動を行っている。2016年10月、(株)スノーピークビジネスソリューションズ エヴァンジェリストに就任。2012年、一般社団法人横浜青年会議所理事長。2016年、グッドデザイン賞を受賞(ハマのトウダイ)。

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