シェアオフィスなど新しい働き方が広がるにつれ、今までにはなかった仕事や役割が生まれつつある。オフィスの環境を整えたり、そこで働く人たちをつないだり。この連載では、新しい働き方やオフィスを支える、さまざまなジャンルの人たちをフィーチャーしていく。第1回は、シェアスペース「Nagatacho GRID」を運営する株式会社ガイアックスの山口若葉さん。現在、「コミュニケーター」として活躍する山口さん、その仕事内容とは?
山口さんが働いている「Nagatacho GRID」(以下GRID)がオープンしたのは2017年2月のこと。それまでさまざまな場所にあった、株式会社ガイアックスの各事業部をひとつのオフィスに統合、多様な業態が共存するシェアリングエコノミーの機能を持つビルが完成した。
GRIDにはガイアックスの本社のほか、3フロア分のシェアオフィススペースと2つのイベントスペースがあり、1階にはカフェ、ドーナツ店、美術館が入居。レンタルオフィスに貸し会議室、シェアサイクルやキッズルームなども備える。山口さんはガイアックスに参加するにあたり、GRIDを「コミュニケーションハブ」にしてほしいと言われたのだそう。
「すごくざっくりしたオーダーでした(笑)。GRIDは『格子』という意味で、それまで違う方向性で動いていたもの同士が重なり合い、新たな出会いやアイデア、ムーブメントが生まれる場所にしたいという考えがあったんです。私の役割は、そのための“結び目”をつくること、このビルに入居している人たち(GRIDメンバー)をつなぐことですね」
山口さんの仕事は大きく3つ。ひとつは新規メンバーや見学に訪れた人にGRIDを案内するツアーを開催すること。GRIDには、自社のシェアオフィスのほか、提携しているコワーキングスペース「みどり荘」などもあり、連日ツアー参加者が絶えないという。
もうひとつの業務はイベントの開催。バーカウンターやスクリーンを備えた地下1階のスペースを中心に、週に1回ほど、さまざまなテーマのイベントを行っている。たとえばLGBTのコミュニティとのコラボレーションや、自分らしさを探し共有するワークショップとランチ会(Share the Future Workshop)などなど。山口さんは主に企画を調整する立場として関わっている。
「もともとはフリーランスでイベントメイキングをしていたんです。でも、私ひとりで企画するのは量的にも難しいし、広がりも生まれないと思って、私がいなくても成立する方法を模索しています。今は、主催者を立てて、そことコラボレーションできる人を探してイベントをするという形。GRIDメンバーはもちろん、地域の方など、できるだけいろいろな人たちが参加してくれるようなイベントを企画しています」
永田町という土地柄、官公庁が関わる企画も多く、話題を呼んだ経済産業省の若手官僚によるレポート「不安な個人、立ちすくむ国家〜モデル無き時代をどう前向きに生き抜くか〜」のイベントは大きな反響があったそう。こうしたイベントの開催を通じ新たなムーブメントをつくることで、メンバーや近隣のワーカーの間に交流が生まれている。
そして、コミュニケーターとしての仕事で欠かせないのが、よりよいオフィス環境つくること。照明は明るいほうがいいか暗いほうがいいか、BGMはどんなものがいいかなど、現在300名ほどいるメンバーの意見を聞いて調整をする。
日常的な会話のほか、アンケートフォームやスラックといったアプリケーション、ときにはリアルな掲示板を使って相互のコミュニケーションを図り、他のビル運営メンバーと協議のうえ、日々改善している。
「たとえば照明は希望者の数に応じて割合を変える。でも、音楽は宗教問題と同じくらい好みがさまざま(笑)。最終的には音があるエリアとないエリアを設けて選んでもらう形に落ち着きました。ルールはできるだけつくりたくないんです。ルールが複雑になると新しい人はわからないし、守れなかったらどうするのかという問題もあるので」
これまでにない役割ということもあって、試行錯誤を繰り返しながら、ひとつずつ丁寧に仕事を進めているという山口さん。もともとはすべてを把握して安心感を与えられるような存在になろうと考えていたものの、なかなか理想どおりにはいかなかった。
「今はもう、テンパった状態をみんなに伝える路線でいこうって(笑)。毎日、GRID内を歩き回っていろいろな人たちと話すんですが、『最近こういう面白いイベントがあるんだけどどうすればいいかなぁ』って、とりあえずみんなに投げちゃうんです。今はこの形がしっくりきていますね」
ツアーのガイドにイベント運営、施設環境改善と幅広い業務をこなすなかでの楽しさは、GRIDメンバーと一歩踏み込んだやりとりができること。山口さんは今後、コミュニケーターという職種がより求められるようになると考えている。
「これから働き方はもっと柔軟になるし、オフィスの選択肢も増えていくでしょう。そうなったときには、ハードだけではない機能で選ばれるようになる。そして、働き方が自由になればなるほど、つながりを求めるようになると考えています。だから、みんなの事業や働き方はもちろん、生き様にまで踏み込むような、深い話し合いができたらいいな、と。もっと私に思っていることを教えてほしいって」
山口若葉 Wakaba Yamaguchi
株式会社ガイアックス ブランド推進室 コミュニケーター
ITベンチャー勤務を経てイベンターとして独立後、シェアリングエコノミーによって自由な働き方を実現するというビジョンに共感し、株式会社ガイアックスに入社。Nagatacho GRID設立時からのメンバーで、現在は同スペースに週4日常駐。自身もシェアハウスで暮らしフリーランスとしても活動している。好きな食べ物はナスの素揚げ。