入り口の扉を開けるとまず目に飛び込んできたのは、レストランを思わせる大きなキッチン。デザイン事務所・サカキラボのオフィスは「LAB and Kitchen」と呼ばれ、食を中心としたさまざまなイベントが行われている。なぜキッチンをオフィスの真ん中に置いたのか、その理由を紐解く中で、「場」が持つ力や食を通じたコミュニケーションが見えてきた。
有限会社サカキラボ
業種:広告、PR等の企画立案、デザイン、制作、PR等に関するコンサルティング
創立年:2005年8月
入居時期:2014年7月
社員数:5名
PR誌やホームページ、広告やパンフレットなどのグラフィックデザイン、企業やサービスのロゴの制作など、デザインに関わるさまざまなものを手がけるサカキラボ。「ラボ(Laboratory)」という名のとおり、デザインをコミュニケーション活動としてとらえ、日々活動している。
現在社員数は5名。しかしオフィスは200㎡超ととても広く、その大半をキッチンとミーティングスペースが占めている。バーカウンターが備わり、使い勝手がよさそうなオープンキッチンはまるでイタリアンレストランのような雰囲気で、ここがオフィスであることを一瞬忘れてしまうほど。
毎週のようにイベントを開催しているため、Facebookなどで情報見た人がレストランやカフェと間違えて、イベントをやっていない時間に訪ねてきてしまうこともあるのだとか。
「キッチンがあることは必須条件だったんです」と語ってくれたのは、所長のサカキテツ朗さん。以前は三菱地所に勤めており、マンションの企画、広報、海外でのビル事業など、さまざまな仕事に携わっていたそう。
「今では考えられないのですが、バブル崩壊後の丸の内は多くの大企業が去ってしまい、“丸の内のたそがれ”なんて言われていて。僕は当時広報、丸ビルが建て替わることは決まっていたので、丸の内の街がこれから変わっていくんだというメッセージが伝わるものをつくりたいと思ったんです」
そうして誕生したのが、誰でも自由に出入りできるフリースペース「丸の内カフェ」。さまざまな企画やイベントを行うことでにぎわいを取り戻し、周辺の商業施設やテナント誘致に大きく貢献。現在の人の集まる丸の内へとつながっていったのだそう。
「場」の持つ力の強さを「丸の内カフェ」で実感したサカキさんは、その後、新丸ビル7階にある個性的な店舗を集めたテラス&飲食ゾーン「丸の内ハウス」の企画に携わることに。そこで食を通したコミュニケーションの面白さに触れ、今度はお金を介さず、もっとフラットに人をつなげる場をつくりたいと考えるようになった。
「このオフィスに移転する前は丸の内にいたのですが、そのビルが建て替えになってしまって。ちょうどオフィスを探していたとき、かつて三菱地所で一緒に働いたことがある方から、ここを紹介してもらったんです。いつかはキッチンを、と思っていたので、ほぼ即決でした」
人が集まる場所としてのキッチンということで、レイアウトはオフィスの真ん中に。「LAB and Kitchen」と名付けられたこの場所では、料理教室やマルシェ、写真展など、3年間で200を超えるイベントが行われ、多彩なつながりが生まれている。
「僕は仕事って、効率性・生産性だけじゃなくて、ゆるさと集中の両方が必要だと考えていて。キッチンって、その両方の要素を持っている空間だと思うんです。集中して一気に料理を仕上げたり、カウンターでダラダラと飲んだり。働くうえでもメリハリをつけてくれる場所ですね」
さらにキッチンがあることのメリットとして、飲みの席で盛り上がった話が現実になることがとても多いのだそう。
「よく飲み会なんかで『いいね、いいね、それやろうよ!』となっても、だいたい実現しないですよね(笑)。でもここではみんなで一緒に食器を並べたり、お皿を洗ったりすることで、その人の働きぶりや段取り力みたいなものが自然と見える。だから信頼もしやすいし、その後の仕事につながりやすいんでしょう」
実際、仕事は移転前と比べて飛躍的に増え、幅広いジャンルへと広がったという。食という世界共通のコミュニケーションツールを生み出すキッチンは、これからの働く空間にとって外せない要素になるのかもしれない。最後に、サカキラボとLAB and Kitchenの今後について聞いてみた。
「丸の内カフェ、丸の内ハウス、LAB and Kitchenと、だんだん進んできたので、何年後かには、その次のコミュニケーションが生まれる場づくりをやるんだろうなと思っています。まだ何かは見えてないんですけど、とりあえずテラスは欲しいな。以前窓を開けて飲んでいたら盛り上がりすぎて怒られてしまったので、騒いでも大丈夫なところで(笑)」