2020年5月に近畿大学宮部浩幸研究室、東北芸術工科大学馬場正尊研究室、OpenAで「コロナ後のまち・住宅・オフィス」を考えるオンラインゼミを立ち上げました。これからの日常「NewNormal」を考える、全国のR不動産、公共R不動産、REWORKの3メディア横断型企画。REWORKではオフィス編をお届けします。
with/afterコロナのまちと住宅とオフィスはどうなっていくのだろう。
近代化以降、まちも住宅もオフィスも仕事を会社ですることを前提に計画されてきましたが、その前提が変わりつつあります。一方で社会に横たわる多くの問題はウイルスへの対応で、いつのまにか解決するものではないということも忘れてはいけません。
世界が同時に同じ問題に直面するなんてことは一生のうちでも滅多にないことです。だからこそ、この期を捉えれば、自分たちの暮らしをポジティブにアップデートできる気がします。そんなことを思いながら、 大阪と山形の大学生が集まったオンラインゼミから出たアイデアを紹介します。
テレワークが3ヶ月も続くと気分転換にオフィスに行くなんて感覚も芽生えてきました。ソーシャルディスタンスを意識しつつも、顔を合わせれば「あれどうなった?」なんて偶発的に事が進み始めると、仲間のいるオフィスに行くのはやっぱりいいなと思います。この期にオフィスもポジティブにアップデートしたいものです。
一方で、オンラインで殆どのことを対応できる人が増えた今、これからオフィスを構えるなら立地は都心でなくても良さそうです。企業カルチャーとまちの相性を優先して場所を選びやすい時代に突入しました。
既存のオフィス街はどうなるのか、これからのオフィス立地はどういう場所がよいのか、未来の社会人と考えました。未来に向かってできることがたくさんありそうです。
いまはいつもの定食屋になんとなく行きづらいのでお弁当買ってきている人も多いはず。ワークデスクで黙々と食事って味気ないですね。そんなときにキッチンラウンジがあれば「コーヒー飲みますか?」なんて会話で進むこともありそうです。この期にキッチンラウンジを作っておけばコロナ後もブレストやワークショップなどのクリエイティブワークにとってのいい場所になるはずです。
ラウンジが屋上というのもいいですね。オープンエアーで気分転換しながら考え事をするもよし、お客さんを案内してブレストするにもいつもとちょっと違う場所であることはプラスになるはず。
いわゆるオフィス街の通りが空虚な感じがするのはオフィスビルの一階が通りとの関係性を作れていないからです。オフィスビルの一階にある立派なエントランスホールはもっと使いこなせないかな。コーヒースタンドを置いて気分転換や打ち合わせの場所に使っているところはありますね。さらに、スクリーンや椅子をセットすれば公開セミナーを開くなど情報発信の場になります。
こういう場所が通りのそこかしこにあるオフィス街がいきいきとしてくるでしょう。オフィスの一階を頑張るとまちも良くなるはずです。
エントランス周りの公開空地は開放的な屋外ラウンジにできますね。地域のお店のスタンドが並んでフードコート化できればランチも仕事終わりも楽しめます。その名もTHE TAKEOUT。これは地域のお店を知ってもらう場所にもなるので、地域活性につながります。オフィスづくりでまちづくり。
オフィスの中でも来客を迎えるスペースは様変わりしそうです。オンライン会議が爆発的に増えたので、来客を迎えるのは会議室ではなく、オンラインの画面上ということがすごく増えました。そうすると会議室よりも電話ボックスのようなソロワークブースが欲しくなります。座ってばかりも疲れるので、時には立って使えるブースも選べれば健康にも良さそうです。
テレワークはいいけれど、ずっと在宅というのも無理がある人も多そうです。駅近にシェアオフィスがあれば、そこを使いたい人もいるのでは。企業も通勤手当ではなく、在宅勤務手当や福利厚生で家の近くのシェアオフィス利用を補助してあげるところがあってもいいかもしれないですね。
各駅停車の駅近くでテレワーカーを対象にしたオフィスができないかな。各駅停車は比較的空いているので、最寄りから数駅の場所なら通勤も快適です。
駅がないところでもコンビニはありますね。コンビニにはコピー機があるしトイレも食料もあるし、駐車場も大きくてアクセスしやすい。あとはデスクがあれば便利なオフィスと見立てることができます。そう考えるとイートインスペースをあとすこし改造すればテレワーカー向けのコワーキングオフィスになりそうです。
郊外では二階から上の階は使いみちがないので、平家のコンビニが大半だけど、コンビニの二階がコワーキングオフィスというのも考えられます。コンビニ事業者さん新規事業でいかがでしょう。
最寄り駅にテレワーク向けのコワーキングスペースがあったら使いたいです。無人駅なら駅長室や駅員室が空いていますね。そこがワークスペースとして使われるようになったら、哀愁漂っていたまちの玄関も明るくなって一石二鳥です。沿線価値も上がりますよね。鉄道会社さん一緒に作りませんか。
はたまた、これからオフィスを構える企業が無人駅をオフィスにできたら、まちの玄関で事業ができるわけです。オフィス物件として無人駅を探してみたくなりませんか。鉄道会社は無人駅の管理に悩んでいますから、きっと良い返事がもらえるはず。
この数ヶ月で僕ら社会人以上にオンライン、テレワークに対応したのが大学生です。オンライン授業は情報の受け取りから成果物の提出までがオンライン。言ってみればテレワークの模擬体験のようなもので、彼らはもう次代の価値観をインストールしたプレ社会人へとアップデート済みです。
企業は優秀な人材を迎え入れるためにもテレワークに対応した労働環境整備が必要になるでしょう。オフィスのアップデート、実行するなら早いほうがいいですね。
ディレクション:宮部浩幸+OpenA
オンラインゼミ:近畿大学宮部浩幸研究室+東北芸術工科大学馬場正尊研究室+OpenA
テキスト:宮部浩幸(SPEAC)
イラスト:オノタツヤ
オノタツヤ氏によるNewNormalのグラフィックを壁紙にして使っていただけます。ダウンロードはこちらから!
1972年千葉県生まれ。建築家。博士(工学)。SPEAC / 近畿大学准教授。作品に「リージア代田テラス」、「龍宮城アパートメント」など、著作に「リノベーションの教科書ー企画・デザイン・プロジェクトー」(共著/学芸出版社)、「世界の地方創生」(共著/学芸出版社)など。