2018年11月、近鉄百貨店四日市店がリニューアルオープンを迎え、その7階に県内最大級のサービスオフィス施設「SYNTHビジネスセンター近鉄四日市」が誕生した。
サービスオフィスとは、オフィス備品や会議室、庶務・秘書サービスなどのオフィスサービスも備えたレンタルオフィスのこと。SYNTHビジネスセンター近鉄四日市では、21部屋のサービス付レンタルオフィス(個室)のほか、4~57名が利用可能な貸会議室、コワーキングスペース、ビジネスラウンジといった多機能な空間を持つサービスオフィスとなっている。株式会社SYNTHと株式会社近鉄百貨店がフランチャイズ契約を結び、その第1号店としてオープンした。
大阪市北区堂島を本拠地に最先端のレンタルオフィス事業を展開するSYNTHが、次なる拠点になぜ老舗百貨店内を選んだのか。サービスオフィス事業を拡大する背景には、どんな社会的ニーズがあるのか。
株式会社SYNTH・代表取締役社長の田井秀清さんに、目まぐるしく変化する現代の働き方とそのオフィス像についてお話をうかがった。
──百貨店内にSYNTHのフランチャイズ店舗がオープンした経緯を教えてください。
「百貨店は物を売る場所」という既成概念を取り払って考えました。百貨店は立地が抜群にいい。“老舗”というブランド力もある。百貨店にこそサービスオフィスの可能性があると考えました。
オープンして1ヶ月ほどが経ちますが、想像を超えた百貨店との連携が起こっています。
今回はフランチャイズ契約なので、近鉄百貨店様の教育を受けたスタッフが店舗に常駐しています。百貨店品質のホスピタリティの高い接客がオフィスでも受けられるため、利用者はさらに心地よく空間を利用することができます。この人材不足の中で、質の高い接客スタッフを確保できることは百貨店ならではの強みです。
さらに、今回導入した貸し会議室は、セミナー、講演会、展示会などのイベントにもご利用いただけます。ある大手企業様が当店の会議室でセミナーを開催されたのですが、当店を選んだ決め手となったのが、百貨店が25万部発行するチラシにセミナーの広告を掲載できることでした。地域密着で費用対効果の高いチラシに魅力を感じられたようです。館内放送のアナウンスを活用するケースもあります。これは百貨店ならではであり、新しい価値がお客様に提供できたと思っています。
──百貨店内のオフィスとして、他テナントとのコラボレーションはありますか?
近鉄百貨店四日市店には東海地区最大級の「無印良品」が入っており、ラウンジのデスクや椅子は良品計画様のものを使用しています。さらに、無印良品のドリンクやスナックなどが購入できる無印良品オリジナルの自動販売機「MUJI POCKET」も設置しており、これは旗艦店が同ビルにあるからこそ実現することです。全国的にもかなり希少なサービスとなります。
百貨店様や他テナント様から学ぶことはたくさんあり、当店舗ならではの新しいサービスがこれからも生まれていく実感があります。
──どのような背景からサービスオフィスが始まったのでしょうか。また、近頃はどんなオフィスが求められていると感じますか?
弊社は2014年からレンタルオフィス事業を開始したのですが、当時は起業家やスタートアップ、外資系企業など、この業界を知っている一部の方が利用する状態でした。ところが最近では東京に本社を持つ大手企業や外国公館などが支店・営業所として利用されるケースが増えています。
弊社のサービスオフィスでは、部屋の清掃から、什器や複合機、備品、飲み物の補充や手入れ、郵便物の管理などの業務を代行しています。必要な機能を必要な期間、必要な単位でご利用いただくことが可能です。働き方改革が進む中、少人数規模の営業所にも本社と同じように整った環境を求めるお客様が増えているように思います。
また、外資系企業を中心に、生産性の向上をメリットに感じていただくお客様も多いです。日中は営業に出てオフィスを不在にしている間、部屋の清掃や備品の手配、郵便物の管理などから解放され、営業という主たる業務に専念ができます。総務担当者を一人雇うことを考えたら、人件費の削減にもつながります。
──大企業の地方営業所のほか、どんな利用者がいるのでしょうか?
地元で開業される方にもご利用いただいています。スタートアップやIT関係の方、弁護士、行政書士といった士業の方がオフィスをかまえる場合、従来では雑居ビルのワンルームが多かったのですが、もっと立地が良く、高品質なビルで働きたいという思いがあったはずです。百貨店にオフィスを組み合わせることで、そのようなニーズを満たすことができたと思います。
──集中(個室)、面談や研修(会議室)、交流やリラックス(ラウンジ)といった、複数のモードや機能が組み合わさった空間になっていますが、どんな相乗効果がありますか?
従来のレンタルオフィスでは、会議や打ち合わせをしたいとき、外部の貸し会議室やカフェ・喫茶店を使うなど、作業スペースと打ち合わせスペースを切り分けることが多かった。しかし、毎回場所が変わると、訪ねて来るお客さんにとっては行きにくいですよね。個室とラウンジや会議室をセットで使うことで、自社の住所にいつでもお客さんを招き入れることができます。
そこでラウンジやコワーキングスペースでは、空間デザインが重要になってきます。
当店舗では、無印良品やイデーの家具を採用しており、入った瞬間のナチュラルな空気感、ファブリックやマテリアルの質感がお客様にとても好評いただいています。見学にいらしたお客様のほとんどが成約されるほどです。
──最後にエリアについてもお聞かせください。四日市市の人口は約31万人。東京・大阪の大都市から飛び出して地方に最先端のサービスオフィスを展開したことも、ひとつのチャレンジだったのではないでしょうか。
欧米をはじめ海外では、10万人規模の地方都市でも当たり前のようにサービスオフィスが存在しますが、これまで日本の地方ではどこも挑戦していませんでした。当初は、四日市にサービスオフィスのニーズはあるのか?うまくいくのか?という懸念の声が多くあがりましたね。
しかし実際にオープンして蓋を開けると、ニーズは確かに存在していた。開業前から多くの問合せをいただき、順調に利用者を増やしています。「ない」と言われてきたことが、日本にもあったと証明できたと思います。
今回“百貨店のサービスオフィス”というブランド力や利便性も大きく作用しているはずです。「百貨店」と「オフィス」の組み合わせが、地方都市を盛り上げていくひとつの事例となっていきたいと思います。
──ありがとうございました。
以前REWORKでは、ショッピングモールがスタートアップ企業と小売業者、一般消費者をつなぐプラットフォーム化している米国の事例を紹介した。
「テナントからの学びが多い」と田井さんが話すように、SYNTHビジネスセンター近鉄四日市でも、百貨店という“地の利”を生かしたサービスが今後さらに展開されていくかもしれない。感度の高い百貨店の客を巻き込んだデモンストレーションの場として活用され、入居者の事業やイノベーションを後押しする環境となり、周辺地域の活性化にもつながるかもしれない。
SYNTHビジネスセンターは、フランチャイズ店舗として関西圏の近鉄百貨店内に展開されていく見込みだ。百貨店とサービスオフィスの融合。そこに秘められた可能性から今後も目が離せない。