もともとは工場だったスペースをリノベーションしたオフィス。黒く塗られた剥き出しの梁が目を引くが、無骨でクールな雰囲気の中に、木の温かみや緑の潤いが感じられる。ここは部品メーカーの中西金属工業株式会社の社内に新たに誕生した共用オフィス「CROSS PARK」。この空間には、同社の新たな未来を生み出す可能性に満ち溢れていた。
中西金属工業株式会社
事業内容:軸受事業、輸送事業、特機事業
創立年:1924年
社員数:3,139名(2017年3月時点)
あらゆる機械の回転部分には必ず使われる部品「ベアリング(軸受)」。その中核である「リテーナー」という部品で世界トップレベルのシェアを誇るのが中西金属工業株式会社(以下、NKC)だ。同社は、2024年に創業100周年を迎える老舗部品メーカーである。近年は新規事業にも力を入れており、AI搭載の次世代農機「アグビー」や手軽に取り付けられる猫壁「キャットロードプラス」など、多彩な商品が生まれている。
そんな同社にこの6月、新しいオフィスが誕生した。その名は「CROSS PARK」。社員同士のコラボレーションを生み、イノベーションが生まれることを目指して造られたオフィスである。このスペースはワークプレイスの研究を行う京都工芸繊維大学の仲研究室と協働の下に生まれた。同スペースが誕生したきっかけや仲研究室と協働することになった経緯など、プロジェクトメンバーにお話を伺った。
「100周年に向けて次のNKCを考えるにあたり、オフィス建て替えの話が持ち上がりました。目指したのは、イノベーションを起こせるオフィス。それを進めるにあたり、社長と以前からつながりのあった京都工芸繊維大学の仲隆介先生にご協力頂くことになりました。」
そう話してくださったのは、プロジェクトメンバーの一人である軸受事業部の山中孝正さん。今後新しいオフィスを計画するにあたり、まずは実験的な場としてCROSS PARKを造ることになったそうだ。
「CROSS PARKのプロジェクトにおいて、まずは社員向けのワークショップを実施しました。オフィス環境の課題をみんなで共有し、どんなものがあれば社員同士コラボレーションができそうか、仲先生の研究室のみなさんのご協力の下、アイデアを出し合ったんです。」
プロジェクトを牽引したメンバーの一人、人事総務部の近藤江里加さんによれば、同社は事業部制をとっており、また各部署は別々の棟にあるため、これまで部署同士が交流する機会がなかったそう。社内の人材交流を促し、イノベーションを生むことが今まさにオフィスに求めていることだという。
大枠の設計は仲研究室が担当し、仲先生とつながりのあった設計事務所HAMADA DESIGNと協働でCROSS PARKは造られていった。プロジェクトの一員である仲研究室の谷川さんと太田さんは、デザインコンセプトについて次のように語ってくれた。
「もともとは木造の工場なのでそれを生かすデザインを意識し、公園のような交流スペースが造れないかと考えました。スペースの中に路地を造ったのですが、その路地がいろんな方向に分かれています。これは、ワーカーたちがその路地で偶発的に出会い、そこからコラボレーションが生まれていくことをイメージしました。」
取材に訪れたのは、CROSS PARKがオープンしてから約2ヶ月が過ぎた頃。実際どのように使われているのかを聞いてみた。
「思ったより多くの社員が利用しているという印象ですね。ウチの会社はいわゆるTHE 日系企業。交流が苦手な人も多いですし、普段と違う場所で仕事することに慣れていない人が多いのですが、日常の仕事や打ち合わせ、セミナーなどで盛り上がっている印象ですね。」(山中さん)
CROSS PARKの誕生によって、社外向けにも良い効果が生まれていると人事の近藤さんは感じている。
「社長が講演などを行うことがあり、お客様に社内をご案内することがあるのですが、みなさんCROSS PARKに驚かれますし、就活の学生さんたちもカッコイイ!と言ってくれて、ブランディングの向上にも繋がっていると思いますね。」
CROSS PARKのキッチン周りには、無料で飲めるコーヒーやお茶、冷蔵庫にはチョコレートなども用意されている。これにはちょっとした秘密があるそう。
「ドリンクは社内で一番美味しいものをここに用意しています。これは仲先生のアドバイスだったのですが、コーヒーは人を呼び寄せる効果があるから美味しいものを置いた方がいいと。わざわざここにドリンクを取りに来ている人は多いと思います。」(山中さん)
スペースはできたけれど、これまでの企業文化的にきちんと利用されるかどうかという懸念は強かったそうだ。このようなちょっとした工夫で居心地の良さや利用頻度は変わるのであろう。
リラックスしたり、カジュアルな打ち合わせや作業スペースとして活用され始めているCROSS PARK。だが、本来目指すのはイノベーションが生まれることだ。
「事業部間の交流をもっと活発化させることが人事としての課題ですね。この場所があるから何かやってみたい、というモチベーションは生まれているので、うまくそれを形にしていきたいと思っています。」(近藤さん)
「社長が新規事業に力を入れているように、これからNKCはどんどん変わっていくと思います。ただ、今の管理職層の中には、そんな流れに同調できない社員もいるかもしれない。若手の社員たちは社長のヴィジョンに共感して入社していると思うのですが、どうしてもそこに世代間のギャップが生まれてしまう。だからこそ、こういう場を利用してギャップを埋め、今後新しいものが生まれていってほしいと思います。」(山中さん)