観光地として人気の高い街、鎌倉。そんな鎌倉にこの春、“鎌倉で働く人専用の社員食堂”がオープンした。人気の高い観光地だけに、ワーカーが気軽に利用できるランチスポットが少ないという悩みから、鎌倉に本社を置く「面白法人カヤック」が手がけた食堂。ここは、同社の社員だけでなく、鎌倉で働く人であれば誰でも利用することができるという。どのようにしてこのコンセプトが生まれ、実際にどう利用されているのか、お話を伺ってきた。
鎌倉に本社を置くWEB制作会社面白法人カヤックが、鎌倉で働く人たちを応援したいとの想いから2018年4月にオープンさせた「まちの社員食堂」。この社員食堂の特徴は、カヤックだけでなく、鎌倉に勤務するワーカーなら誰でも利用できるという点だ。鎌倉に拠点を置く企業や団体が会費を支払うことで運営に協力をしており、会員企業のワーカーは一食あたり100円の割引で食事をすることができる。
メニューは週替わり。地元鎌倉の飲食店がヘルシーで美味しいメニューを朝・昼・晩ふるまう。取材当日は「鎌倉 百年の蔵~カフェ&バー tsuu」の「tsuuママの特製カレー」。スパイスがしっかり効きつつも野菜の甘みが感じられるカレーは、どこかホッとする味。ワーカーたちに昼からの働くエネルギーをたっぷり与えてくれそうだ。
「社員食堂をつくろうという話は2017年の夏くらいからスタートしました。現在カヤックのオフィスは一部横浜にあるんですが、新社屋を鎌倉に建設中で年内中に移転の予定をしています。うちの社員にはエンジニアなど若い男の子も多いのですが、鎌倉はどうしてもランチ難民が発生しやすい場所なんです。美味しいお店はもちろん多いのですが、お昼時は観光客で混んでいたり、値段も高かったり…。まずその若い社員たちを何とかしないとね、というところから話は始まりました」
こう語ってくださったのは、カヤックの広報・人事部で、まちの社員食堂のプロジェクトにメインで携わられた渡辺裕子さん。しかし話が進むにつれ、福利厚生としてのただの社員食堂では面白くない、せっかくだから鎌倉の他の会社とも協働し、鎌倉の美味しいお店に週替わりでメニューを出してもらうことはできないか、という方向に話が進んでいったそう。
「弊社の代表の柳澤は、“鎌倉で働く人を増やす”と常々言っているんです。鎌倉で暮らす人の半分以上は東京や横浜に働きに行ってしまっている現状があるのですが、せっかく恵まれた環境で暮らしているのにもったいない、と。鎌倉で働くことの質を上げ、働く人全体の福利厚生に寄与し、ゆくゆくは鎌倉で働く人をもっと増やしたいとの想いから、まちの社員食堂のアイディアは生まれました」
現在、会員企業・団体は29社、メニューを提供してくれる飲食店は32店舗となっており、すでに来年3月までのメニューはほぼ決定しているそう。ここまでの賛同者を集めるには相当なご苦労があったのでは?とお伺いしてみたところ、「実はそれほど大変じゃなかったんです」と笑う渡辺さん。それはなぜだったのだろうか。
「飲食店の方々は二つ返事のところも多かったですね。“鎌倉で働く人のために一肌脱ぐよ”なんておっしゃってくださる方もいて、ものすごく鎌倉愛を感じました。会員企業の方も、例えば鎌倉市役所さんなどにご参画いただいているのですが、行政は難しいかなと思っていたところ“ぜひ!”という感じで、トントン拍子に参画が決まって。特に行政の方などは12時〜13時とお昼休みが決まっているので余計にランチ難民になりやすく、ニーズはあったんだなと思いました」
飲食店は地元のお店に限定しているが、個人経営のところがほとんどのため、実際にキッチンに立って提供いただくことが難しい場合、仕込みだけやレシピ監修など無理のない範囲でお願いをしているそうだ。
まちの社員食堂の2階に事務所を構える「鎌倉R不動産」も会員企業の一つ。同社の代表取締役の小松啓さんに、食堂の使い心地を伺ってみた。
「これまで朝・昼・晩どのメニューも全て食べてますよ(笑)鎌倉のワーカーたちは、どうしてもお昼はコンビニになりがちなんです。昼時はどこも混んでいるし、高いし…。ここのおかけでそれはすごく減ったし、健康で美味しいご飯が気軽に食べられるのは本当にありがたいですね」
オープンしてから約2ヶ月。リピーターも多く、またワーカー同士が繋がり、新たな仕事が生まれたという話などもあるそう。早くも鎌倉のワーカーたちにとって欠かせないエネルギーチャージの場であり、コミュニティの場になっているようだ。最後に、これからの展望について渡辺さんにお伺いしてみた。
「いま営業日は月〜金までなので、土日に何かできないかなと考えています。すでにちょっと話が挙がっているのは、鎌倉の歴史を学ぶサロンだったり、漁業組合の地魚の即売会だったり(笑)。人がつながるようなコミュニティの場にしたいとの想いはもともとあったので、これからはそういう仕掛けをつくってきたいと思っています」