さまざまなオフィスやサービスの現場取材を通して、新しい働き方や営み方を発信するREWORK。「働き方改革」に注目が集まる中、新たなワークスタイル実践する現場から見えてきたのは、「働く」こと自体の価値の変化と、それに柔軟に対応して変化するオフィスの姿だった。成長することが求められた時代から、新たな価値を創造することが求められる時代へ、会社と個人、家とオフィス、「暮らす」と「働く」など、これまで常識とされてきた物事をもう一度見直し、関係性を再定義することが求められている。さまざまなインタビューから、次の時代の「働く」ことの価値を考えてみる。
REWORKでは、IT系ベンチャーや飲食業、数千人の社員を抱える大企業から社員数名のデザイン会社まで多様な業態の方々に取材してきた。それは必ずしもオフィスだけでなく、食堂や保育園、働くことをサポートするサービスの現場も積極的に見にいった。「REWORK考察」と題した今回のコラムでは、実践の現場に横串を刺し、共通してみえてくる変化の兆しから、次の時代の「働き方」のヒントを探っていきたい。
まず、すべての現場に共通することは、「実験」としてまずやってみる、という姿勢であること。低成長時代に突入したと言われる社会において、安定した収入や雇用は前提条件ではなくなり、常に新たな価値を作り上げていかなければ生き残っていけない、という危機感がある。すると、何もせずに立ち止まっているよりも、トライしてみてダメなら変えていけばいいと考え挑戦していく企業が生き残っていく。オフィス取材の現場にもそのような考えに基づく共通点を見ることができる。
「みんながご機嫌に、いきいきと人生を楽しめるオフィス」
これは、子育てや家族に特化したWEBメディアの運営などを行う企業「エバーセンス」で語られた、オフィスのコンセプトを表現した言葉である。効率の良いオフィス、かっこいいオフィス、駅から近いオフィス…これまでのオフィスに求められてきたものとは全く違うフレーズが強く記憶に刻まれている。この言葉には、社員が居心地よく、自由に働ける環境を作りたいという経営者の思いが込められている。固定の執務スペースとランダムなテーブル席が緩やかに区切られ、週に2回専属のママが作るランチが提供される。ヨガ教室や映画鑑賞などのイベンも開催され、ご機嫌でいるための、適度な緊張感とリラックスがオフィスのハードとソフトによって実現されている。
「時代が低成長に変わった現在は、価値基準や働き方もさまざま。働くという行為そのものが楽しいほうがトータルの幸福度は高い」
と語ったのは、アウトドアオフィスを提供するスノーピークビジネスソリューションの村瀬さんだ。経済が成長していた時代にはその成果によって、人々は喜びを見出していた。しかし、これからの時代は働いていること自体が楽しく、自分の人生を豊かにするものであるという価値観に変化していくと考えている。
会社の成長が個人の喜びにつながるのではなく、個人の喜びの上に、会社の成長があると考える企業が増えている。オフィス空間においては、自分たちでつくり上げる余白のある、リノベーションされたラフな空間を求めていた、と語る経営者が多かった。快適に、もっと楽しく働くにはどうしたら良いか、個人がオフィスの環境作りにコミットし、働きやすい環境に変える当事者となる。会社はその受け皿を用意する。これは、自ら考え行動できる人材を育成することにも繋がっている。
副業解禁やリモートワーク、時短勤務など多様な働き方が増える一方、社員間の情報共有やコミュニケーションなど、いかにつながりを作り出していくか企業側の戦略に注目してみる。
プラレール型デスクでお互いの顔を見ながら働くスタイルを取り入れているのは、Tigerspike。以前のオフィスは3フロアに分かれていたために十分に社員間のコミュニケーションが取れていなかった。新たなオフィスに求めたのは、全員の顔を見ながら働ける広々としたワンフロア。個人個人が主体的に働く企業だからこそ、日々顔を合わせることで、どのメンバーが組み合わされても100%の力が発揮できるよう、ストレスなくコミュニケーションが取れる工夫されている。毎週金曜日の夜に行われている「Friday Beer」は、業務時間の中で開催される飲み会。お酒を飲みながら社内外の交流をし、ソフト面でも繋がるための工夫をしている。
「阿吽の呼吸が企業を成長させる」
と語るのは、食を通じて人々を繋ぐ地域コミュニティサイトを運営する「KitchHike(キッチハイク)」の代表、山本さん。成長にスピードが求められるベンチャー企業だからこそ、手づくりのランチを全員で食べることで、何気ない会話からお互いの変化に気づけたり、価値観を理解できたりする。そうした自らの経験から、オフィスに食事の機会を提供するサービス「オフィスKitchHike」も展開している。食事を共にすることで、コミュニケーションコストの圧縮につながる、そこに企業のニーズがあると語る。
大きなカウンターキッチンにより、3年間で250回のイベントが行われるオフィスがある。デザイン事務所のサカキラボは、「LAB and Kitchen」と名付け、オフィスを開く。執務スペースより広いキッチンでは、樽で取り寄せたワインを振舞ったり、外部から企画が持ち込まれたりしている。単純なオフィスの機能が拡張し、空間が仕事や出会いを運び営業役を担っている。
働き方が多様化したからこそ、企業はコストをかけつながるための工夫をしていかなければならない。空間を作るだけではなく、いかに運用していくか、ハードとソフトの両面で工夫していくことで、その価値の最大化している。
新たな発想で会社の理想像を語ってくれたのは、スマイルズの遠山さん。起業当時から会社が「インフラ」になることを思い描く。会社や社会から与えられた仕事ではなく、「自分ごと」として、個人のやりたいことを実現できることが理想。スマイルズでは、社員でありながら自分のお店を持ち経営をしていく、会社はそれに人や資金で投資をしている。個人のリスクを減らしつつ、とがった面白いものが生みだされることで会社の価値高めていくと考えている。
社外とのつながりを持つことで、凝り固まった組織に刺激を与えたいと考えている大企業も多い。「100BANCH」はパナソニックが運営するクリエイティブファーム。若い世代のプロジェクトチームを支援し、「100年先の世界を豊かにするプロジェクト」を生み出していくことを目的としている。「LODGE」はヤフーが運営する日本最大級のコワーキングスペース。都内の一等地にある1330㎡のワンフロアは、実験的に無料で開放され、社内でも社外でも自由に働ける場所になっている。新しい事業を生み出すため、社外からの刺激を取り入れるコラボレーションスペースとして期待されている。
いずれも直接的な収益ではなく、新たな接点が生まれる環境を作り出し、社内へ還元していくことで刺激を与える狙いだ。長期的な視点で人に投資をすることで、企業が成長していくと期待している。
このようにREWORKでは、新たな働き方像を実践する企業やサービスを見てきた。
単に「働く」を考えることは、働きやすい環境を整えるということだけではなく、企業戦略やプロモーション、新規事業創造などの企業改革の機会として、企業の主軸を再構築する姿が見られた。未来像を描き、それを働く環境で実践する。そのためには働く環境をつくるあらゆる選択肢が、もっと自由になっていくと必要がある感じている。そのプロセスに我々もコミットしていきたいと思っている。
REWORKでは、企業と連携し新たな働く環境作りやサービス開発、プロダクト開発を行うプロジェクトを準備しています。
ご興味のある方は、ぜひお問い合わせください。