浅草橋にあるシェアオフィス「Un.C. -Under Construction-」。
REWORKをはじめるきっかけにもなったこのオフィスは新しい働き方を試すいわば実験場だ。この連載コラムでは、Un.C.を運営する中で発見したこれからのオフィス環境の可能性をレポート。前回までで、Un.C.の空間や家具などのハードについて紹介したが、今回はソフト的な内容。実際に稼働してからの使われ方、新しい発見などについて紹介する。
2017年2月にスタートしたUn.C.。約1年半が経過した。多少の入れ替わりがありつつも、現在ほぼ満席の状態で稼働している。いろいろなことを想定して計画をしたものの、果たして実際にどういった使われ方がされるのか。それは設計者として常に関心のあること。今回は設計者であると同時に運営者、そして入居者でもあることから、各スペースの使われ方を常時観察することができたので紹介していきたい。
まずは、パレットラックを利用した固定席エリアから。
このパレットラック、使ってみると想像以上に使い勝手が良いことが分かった。フックでいろんなものを引っ掛けられるのでコートを掛けるハンガーとしても機能する。その他、それぞれが思い思いの使い方をしていてそれが風景として結構楽しいのだ。そして収納面でもとても優秀。ペーパーレス化が少しずつ進み、必要な書類などが減ってきてはいる世の中になってきてはいるものの、まだまだ仕事をする上で必要となるモノは多い。できるだけモノを少なくしたスッキリとしたオフィスもいいが、少し雑然することを許容し、それが個性として現れるようなこのような風景も有りなんじゃないかと思わされた。
共用スペースは、日中は常に数カ所でミーティングが行われている。個室及び半個室の会議室についてはカレンダー管理がされた予約制だが、空いている時には好きに使って良いルールとなっている。なので状況をみて固定席から離れて会議スペースで作業をする人も結構多いのが分かった。気分転換に場所を変えながら仕事をするスタイル。特に壁に埋め込まれた会議ブースは籠もり感があるからか、個人作業スペースとしても人気となっている。
それぞれがその時の気分やモードによって場所を選択し、そこで働く。当初考えていた「公園のようなオフィス」は理想的に実現しているように思える。
また、傾向としてモニターを用いた会議が多いことも発見だった。スカイプなどの遠隔会議や、画面で資料を共有しながら行うミーティング。ホワイトボードに描くよりも、モニターをPCに繋いで直接そこで編集していく会議のスタイルが今は効率的なのかもしれない。それを受け、大、小会議室に2台あったモニターに加えて追加で1台設置をした。
最後はキッチン。コミュニケーションのハブとなることを目的として計画したものの、本当に機能するのか。そんな不安は見事に消え去り、想像以上の効果が得られた。誰かがキッチンにいれば自然と人が寄っていき会話が生まれる。時には料理好きなメンバーが料理を振る舞ったりして人が集まる。
いつもはそれぞれ違うことをしているオフィスのメンバーだが、「食」というテーマの元では皆が繋がれるのだ。必然的にオンからオフになるスペースなので、リラックスしながら話せることも大きいだろう。
また、Un.C.ではコーヒーをサーバーなどの提供ではなくハンドドリップで淹れるルールにしている。時間と手間は掛かるのだが、逆にそれが良いのだ。滞在時間が長くなるため、そこで交流が生まれやすくなるし、ゆっくりとドリップすることで気分の切り替えにもなるから。仕事が忙しく疲れているときでも、そこで落ち着くことでストレスをすっと軽減できる。こうしたコミュニケーションを生むことだけなく、身体的、精神的な側面でも効果をもたらしてくれるオフィスキッチンは、きっとこれからのオフィスのスタンダードになる機能であると感じている。
Un.C.では、全体が繋がった一つの空間に、さまざまなモードを受け入れる場所を設けた。これを実現してみて気づいたことがもうひとつ。それは、マネジメント的な側面での発見だ。常に緊張感のある環境ではなく、適度に気を抜くことが許されることで、それぞれの人間性のようなものが垣間見える。そして空間が一体だからこそ、そういった個性や特性をなんとなく感じられる。
Un.C.はシェアオフィスだが、これがひとつの企業であったとしたらどうだろう。通常の業務では中々見えてこない新たな一面を発見することにつながったり、チーム編成を考慮するきっかけになる可能性があるのではないだろうか。そんなことから、これからのオフィス環境はマネジメントおよび企業の生産性に深く影響していくに違いない。
<次回に続く>